医薬品のサプライチェーンでは、「シングルソースだからリスクが高い」と評価することがあります。
確かに、供給元が一社しかないことはリスクの一つです。
しかし、同じシングルソースでも、これまで納期遅延がほとんどないサプライヤーと、納期遅延を繰り返しているサプライヤーでは、供給リスクは同じではありません。
そこで参考になるのが、**ICH Q9(Quality Risk Management:品質リスクマネジメント)**の考え方です。
ICH Q9は医薬品の品質リスクマネジメントについて国際的な考え方を示したガイドラインです。品質に関するリスクを科学的知見に基づいて評価し、そのリスクの程度に応じて管理していくことを基本としています。
本来は品質リスクマネジメントのガイドラインですが、私はこの考え方を原薬や原料のサプライチェーンにも活用できると考えています。
①「シングルソース」だけでリスクを判断しない
原薬や原料の供給リスクを考える場合、
・シングルソースか
・納期遅延は発生していないか
・在庫をどの程度持っているか
・製造リードタイムはどのくらいか
・品質トラブルは発生していないか
・原料や中間体をどこから調達しているか
など、リスクを複数の要素に分解して考えることができます。
こうして評価すると、「シングルソース=高リスク」と一括りにするよりも、実際の状況が見えやすくなります。
そして、リスクの大きなところに、人、時間、コストを優先的に使う。
これはICH Q9から学べる重要な考え方の一つです。
② リスクを点数にしたら、その数字の中身を見る
リスクを「発生可能性×影響度」などで数値化すると、多くの原薬やサプライヤーを同じ尺度で比較できます。
ただし、ここには注意が必要です。
例えば、
発生可能性「2」×影響度「3」=6
発生可能性「3」×影響度「2」=6
どちらも同じ6点ですが、リスクの性質は異なります。
前者は発生する可能性は比較的低いものの、発生した場合の影響が大きい。
後者は影響は比較的小さいものの、発生する可能性が高い。
当然、取るべき対策も変わります。
リスクマトリクスは「答え」を出すためのものではなく、議論を始めるための道具だと私は考えています。
大切なのは、
「なぜ、この点数になったのか?」
を見ることです。
③ 発生可能性が低くても、影響度の大きなリスクを見る
もう一つ注意したいのが、「低頻度・高影響」のリスクです。
例えば、
発生可能性「1」×影響度「3」=3
点数だけを見ると、それほど高いリスクには見えません。
しかし、医薬品サプライチェーンでは、大規模な自然災害、地政学的な問題、製造所での重大な品質問題、行政処分などによる製造停止など、頻繁には起こらなくても、発生すると大きな影響を与える事象があります。
「発生する可能性が低い」ことと、
「考えなくてもよい」ことは同じではありません。
そのため、総合点だけではなく、**「もし起きたら、どの程度の影響があるのか」**という視点からリスクを見ることも重要です。
リスクの可視化は、意思決定のためにある
リスクを数値化する。
可視化する。
優先順位をつける。
しかし、きれいなリスクマップを作ることがゴールではありません。
「なぜ、このリスクは高いのか」
「何をすれば下げられるのか」
「どこまで対策するのか」
「どのリスクは理解したうえで受け入れるのか」
こうした議論につなげて、初めてリスク評価が意味を持ちます。
さらに、リスクは一度評価したら終わりではありません。
納期実績が変わる。
品質上の問題が発生する。
政治情勢が変わる。
代替供給元が確保される。
在庫水準を変更する。
状況が変われば、リスクも変わります。
だからこそ、評価したリスクを定期的に見直していくことも必要です。
ICH Q9を、サプライチェーンを考えるヒントに
ICH Q9は品質リスクマネジメントのガイドラインであり、サプライチェーンリスク管理そのものを規定したものではありません。
しかし、
リスクを分解して評価する。
優先順位を決める。
リスクに応じて経営資源を配分する。
評価したリスクを継続的に見直す。
こうした考え方は、原薬や原料の調達、サプライヤー管理、そして医薬品の安定供給にも活用できます。
すべてのリスクをゼロにすることはできません。
だからこそ、見えていないリスクを見えるようにして、どこに手を打つのかを決める。
ススミルコンサルティングでは、医薬品サプライチェーンの可視化やリスク評価を、単なる「見える化」で終わらせず、具体的な意思決定や対策につなげることが重要だと考えています。
今回ご紹介した内容は、noteで3回に分けて、もう少し詳しく書いています。
第1回
「ICH Q9を品質部門だけのものにしておくのは、もったいない」
第2回
「リスクを点数にした瞬間、見えなくなるもの」
第3回
「発生確率が低いリスクは、本当に後回しでいいのか?」
ご興味のあるテーマから、ぜひご覧ください。











