原薬製造所の設備変更が、なぜ医薬品の限定出荷につながるのか

2026年7月8日、厚生労働省は、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル錠200mg製剤の安定供給について、関係者に協力を要請しました。

先発医薬品であるヒスロンH錠200mgは、原薬製造所における製造機器の変更に伴う製造トラブル等により、2026年2月から限定出荷が続いています。

現在、製造販売業者では、新たな原薬製造所を含めた原薬調達や増産が検討されています。しかし、医療機関や薬局では、必要な量を十分に入手できない状況が生じているとされています。

今回の事例で注目したいのは、供給不足の始まりが、製剤工場ではなく「原薬製造所の設備変更」だったことです。

設備を変更するだけでは済まない

原薬製造では、製造機器の変更によって、製造条件が変化する可能性があります。

例えば、反応槽や乾燥機、ろ過設備などを変更すると、次のような点に影響が及ぶことがあります。

・温度の分布
・撹拌や混合の状態
・反応時間
・結晶の形や粒子径
・不純物の生成量
・乾燥状態や残留溶媒

同じ原料を使い、同じ製造手順で製造したとしても、設備が変われば、得られる原薬の品質特性が変わる可能性があります。そのため、設備変更後には、変更による品質への影響を評価し、必要に応じて製造条件を再検討しなければなりません。

設備を入れ替えれば、すぐに従来と同じ原薬を製造できるわけではないのです。

代替原薬は、見つければすぐに使えるわけではない

厚生労働省は、製造販売業者に対して、代替原薬の速やかな確保や増産を求めています。
しかし、新しい原薬メーカーや製造所を見つけても、その原薬を直ちに製剤へ使用できるとは限りません。

新しい原薬を採用するためには、一般的に次のような確認が必要です。

・規格や試験方法の確認
・不純物プロファイルの比較
・粒子径や結晶形などの物性評価
・製剤の溶出性や安定性への影響確認
・原薬等登録原簿、いわゆるMFへの対応
・製造所のGMP適合性の確認
・製剤メーカー側での変更管理や承認手続

候補となる原薬製造所が存在していても、これらの評価が完了していなければ、実際の供給源としては機能しません。書類上は複数の候補があっても、すぐに切り替えられる製造所が一つしかなければ、サプライチェーンは実質的に1社依存です。

原薬の複数購買は、社数だけでは評価できない

医薬品の安定供給対策では、原薬の複数購買が重要だといわれます。

しかし、単純に原薬メーカーの数だけを数えても、実際の供給力は分かりません。

確認すべきなのは、次のような点です。

・代替原薬の品質評価が完了しているか
・MFの登録や引用手続が完了しているか
・必要数量を製造できる能力があるか
・通常時から一定量を購入しているか
・切替えに必要な期間はどの程度か
・原料や中間体の供給源が共通していないか

2つの原薬製造所が登録されていても、片方から一度も商業購入していなければ、障害発生時にすぐ供給できるとは限りません。

「代替先がある」ことと、「代替できる」ことは違います。

製造所数から、切替可能性の評価へ

今回の事例は、一つの製造設備の変更が、原薬供給を通じて医薬品全体の限定出荷につながることを示しています。

原薬サプライチェーンを評価する際には、製造国や製造所数だけでなく、設備、品質、承認、在庫、切替期間まで含めて見る必要があります。

ススミルでは、原薬の供給リスクを、単なる「1社購買・2社購買」ではなく、次のような段階で捉えることが重要だと考えています。

1.候補となる原薬製造所が存在する
2.品質評価が完了している
3.薬事手続が完了している
4.商業生産実績がある
5.必要数量を供給できる
6.一定期間内に切り替えられる

サプライチェーンの強さは、登録された供給者の数ではありません。

問題が起きたとき、実際にどこまで切り替えられるか。

そこまで可視化して、初めて安定供給力を評価できます。