第2回 供給確保医薬品の評価から考える

~本当に見るべきは「調達リスク」ではないか~

第1回では、原薬の複数ソース化は目的ではなく、患者さんへの安定供給を支えるための手段の一つであることについて考えてみました。

では、複数ソース化が実現できれば、それだけで安心なのでしょうか。

今回は、「本当に見るべきものは何か」という視点から、調達リスクについて考えてみたいと思います。


二社購買でも安心とは限らない

一般的に、二社購買や複数ソース化はリスク低減策として有効です。

しかし、二社購買だからといって、それだけで十分とは言い切れません。

例えば、

  • 出発原料や重要中間体の供給元が同じ
  • 生産拠点が同じ地域に集中している
  • 物流ルートが共通している

といったケースでは、上流で問題が発生した場合、複数の原薬メーカーが同時に影響を受ける可能性があります。

つまり、

「2ソース=安心」ではありません。


しかし、すべてを分散すればよいわけでもない

一方で、「同じ出発原料だから危険」「同じ国だから危険」と単純に考えることも適切ではありません。

重要なのは、そのリスクを理解し、どのように備えるかです。

例えば、上流原料が共通であったとしても、

  • 上流原料を1年分確保している
  • 複数の調達ルートを検討している
  • 有事の際の代替物流ルートを想定している

のであれば、リスクをコントロールすることは可能です。

リスクをゼロにすることはできません。

しかし、リスクを理解し、許容できるレベルまで低減することはできます。


「同じ国だから危険」とも言い切れない

近年、地政学リスクへの関心が高まっています。

そのため、

「インド原薬はリスクが高い」

「中国原薬は危険」

といった議論を耳にすることがあります。

しかし、本当に重要なのは国名そのものではありません。

例えば、インド国内でも、

  • デリー周辺
  • ハイデラバード
  • バイザック(Visakhapatnam)

など、生産拠点が分散されていれば、一つの地域で問題が発生しても、すべてが同時に停止するとは限りません。

これは日本国内でも同じです。

日本国内だから安心とは言い切れません。

南海トラフ地震や首都直下地震など、大規模災害のリスクを考えれば、国内であっても地域分散は重要になります。

つまり、

「国内だから安全」「海外だから危険」ではなく、どのようにリスクが分散されているかを見ることが重要なのです。


本当に見るべきもの

これからの原薬調達では、調達先の数だけではなく、リスク構造そのものを理解することが重要になります。

例えば、

地政学リスク

国単位ではなく、地域や物流も含めて考える。

上流原料への依存

出発原料や重要中間体まで含めて把握する。

品質リスク

品質トラブルの履歴や品質システムを理解する。

承認・審査リスク

長年一変申請を経験していない製剤では、承認審査の長期化が供給リスクになる可能性もある。

在庫戦略

在庫を持つことも重要なリスク低減策の一つである。


調達先の数ではなく、リスク構造を理解する

私は、これからの安定供給に必要なのは、

「何社から買っているか」

ではなく、

「どのようなリスク構造になっているか」

を理解することだと考えています。

複数ソース化も重要です。

在庫も重要です。

品質も重要です。

そして、それぞれのリスクをどこまで許容し、どのように備えるか。

その組み合わせこそが、安定供給を支える本質ではないでしょうか。


次回予告|見えないリスクをどう可視化するか

第3回では、

「見えないリスクをどう可視化するか」

をテーマに、

  • 原薬サプライチェーンの見える化
  • リスクマップ
  • 定性的な情報の整理
  • AIやデータ活用の可能性

などについて考えてみたいと思います。

複数ソース化というKPIを追いかける時代から、

リスクを理解し、見える化する時代へ。

そんな変化が、静かに始まっているように感じています。