第1回 供給確保医薬品の評価から考える ~原薬の複数ソース化だけで安定供給は実現するのか~

近年、医薬品の安定供給を巡る議論が活発になる中、供給確保医薬品の企業評価に関する動きが注目されています。

企業の取り組み状況を評価し、その結果を公表する方向性も示されており、
今後は各企業の安定供給への取り組みが、これまで以上に社会から見える時代になっていくと考えられます。

だからこそ、今あらためて考えてみたいことがあります。

評価項目やKPIを達成することと、本当の意味での安定供給は同じなのでしょうか。

このテーマは非常に重要だと感じているため、今回から3回にわたり、

「供給確保医薬品の評価から考える」

というテーマで考えてみたいと思います。

第1回

原薬の複数ソース化だけで安定供給は実現するのか

第2回

本当に見るべきは「調達リスク」ではないか

第3回

見えないリスクをどう可視化するか

今回は、第1回として、原薬の複数ソース化について考えてみます。


供給確保医薬品の評価で重視される原薬の複数ソース化

供給確保医薬品の評価では、原薬の複数ソース化や複数社との契約が重要な評価項目の一つとなっています。

複数の調達先を持つことは、安定供給の観点から非常に重要です。

一社依存による供給停止リスクを低減できるため、
複数ソース化を進めること自体は合理的な取り組みといえます。

しかし、ここで少し立ち止まって考えてみたいことがあります。

本来の目的は「複数ソース化」そのものではありません。

目指すべきものは、患者さんへの安定供給を支える「原薬の安定調達」です。


KPIが目的化すると、本来の目的を見失うことがある

評価項目やKPIが設定されると、いつの間にか「複数ソース化すること」自体が目的になってしまうことがあります。

しかし、重要なのは「二社購買を実現したか」ではなく、「本当にリスクが低減されているか」です。

例えば、

  • 二社とも同じ国や地域に生産拠点を持っていないか。
  • 出発原料や重要中間体の供給元は共通ではないか。
  • 物流ルートは分散されているか。
  • 品質トラブル発生時に、実際に切り替え可能な状態になっているか。
  • 技術移転や一変申請の準備は十分か。

こうした視点まで考えなければ、複数ソース化というKPIを達成していても、実際の供給リスクは十分に低減されていない可能性があります。


原薬の複数ソース化は手段であって目的ではない

例えば、二つの原薬メーカーと契約していても、
両社が同じ出発原料メーカーに依存しているケースがあります。

その場合、上流で問題が発生すると、二社同時に影響を受ける可能性があります。

また、緊急時に切り替えるための技術移転や一変申請の準備ができていなければ、
複数ソース化していても迅速な対応は難しくなります。

つまり、

複数ソース化は目的ではなく、安定調達を実現するための手段の一つに過ぎません。

重要なのは、

  • どのようなリスクが存在するのか。
  • そのリスクをどこまで許容するのか。
  • どこが分散され、どこが共通しているのか。

を理解することです。


本当に重要なのは調達リスクを深く理解すること

私は、これからの医薬品の安定供給において重要になるのは、
複数ソース化というKPIを追いかけることではなく、

調達リスクそのものを深く理解し、見える化すること

だと考えています。

評価項目もKPIも重要です。

しかし、その数字を達成することが目的になった瞬間、
本来守るべき「患者さんへの安定供給」という原点が見えにくくなることがあります。

複数ソース化の先にあるものは何か。

その問いを持ち続けることこそが、これからの医薬品サプライチェーンマネジメントに求められているのではないでしょうか。


次回予告|本当に見るべきは「調達リスク」ではないか

第2回では、

「本当に見るべきは調達リスクではないか」

をテーマに、

  • 二社購買でも残るリスク
  • 地政学リスク
  • 上流原料への依存
  • 物流リスク
  • 技術移転や一変申請

などについて、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。

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