ホルムズ海峡の緊張と医薬品供給――ナフサから見える“見えにくいリスク”

中東情勢の緊張が高まるなか、ホルムズ海峡をめぐる動きがエネルギー市場や物流に影響を及ぼしています。実際に、石油化学業界ではナフサ調達への支障が報じられており、アジアの石化メーカーでも調達遅延や操業への影響が懸念されています。

ホルムズ海峡は、世界の原油や石油製品の輸送において重要な海上ルートのひとつです。こうした変化は、燃料や化学品だけの問題ではありません。医薬品の安定供給という観点でも、見過ごせないテーマです。なぜなら、医薬品は原薬だけで成り立っているわけではなく、包装資材や添加剤、製造工程で使われるさまざまな素材・化学品に支えられているからです。

ナフサは、多くの化学製品の出発点

ナフサは、石油化学における重要な基礎原料のひとつです。分解工程を経てエチレンやプロピレンなどの基礎化学品となり、そこからプラスチック、合成ゴム、塗料、洗剤、繊維など、幅広い製品や素材へとつながっていきます。

つまりナフサは、最終製品そのものではなく、多くの製品を支える上流の土台にある存在です。普段はあまり意識されませんが、ここに変動が起きると、時間差をもってさまざまな産業に影響が広がる可能性があります。

医薬品は、ナフサと無関係ではない

医薬品の中心は原薬ですが、実際に製品として市場に届けるには、それ以外にも多くの要素が必要です。特に影響を受けやすいのが、包装資材、添加剤、そして製造工程で使われる化学品です。

1.包装資材への影響

医薬品の包装には、さまざまな高分子材料やゴム系材料が使われています。たとえば、PTP包装の成形フィルム、ボトル容器、キャップ、注射剤のゴム栓などは、製品の品質保持や安全な使用に欠かせない部材です。これらの多くは石油化学由来の素材に支えられており、上流の供給制約や価格変動の影響を受ける可能性があります。

包装は製造工程の終盤に位置しますが、ここに支障が出ると、製品出荷に直結することがあります。原薬があっても、必要な包装資材が揃わなければ、安定供給は維持できません。

2.添加剤への影響

医薬品には、有効成分だけでなく、安定性や使いやすさを支えるための添加剤が用いられています。たとえばPEG(ポリエチレングリコール)は、溶解補助やコーティングなど、幅広い用途で使われる代表的な素材のひとつです。

もちろん、すべての添加剤が石油化学由来というわけではありません。しかし、石油化学サプライチェーンと結びつきの強い添加剤や一部の材料については、上流の需給変動の影響を受ける可能性があります。

3.原薬製造への影響

医薬品や関連素材の製造では、さまざまな化学品や溶媒が使われます。こうした材料は、製造工程を支える裏側の存在ですが、供給制約や価格上昇が起きれば、製造コストや供給安定性に影響することがあります。

直接見えにくい部分ではありますが、医薬品の供給はこうした上流の素材や化学品にも支えられています。だからこそ、石油化学分野の変動は、医薬品業界にとっても無関係ではありません。

なぜ、このリスクは見えにくいのか

ナフサのような基礎原料は、医薬品の現場から見ると一見遠い存在です。ですが実際には、包装、添加剤、製造用化学品といった形で、医薬品サプライチェーンの上流に組み込まれています。

しかも医薬品は、一般消費財のように原料や資材を簡単に切り替えられるものではありません。品質や安定性、安全性を確保しながら供給を維持する必要があるため、代替の検討や切り替えには時間と慎重な判断が求められます。

そのため、上流で起きた変化を下流でただちに吸収できるとは限りません。こうした構造があるからこそ、エネルギーや石油化学の揺らぎが、時間差をもって医薬品の供給リスクとして表れることがあります。

調達・SCM部門に求められる視点

今回のような事象を、単なる原料価格の上昇として捉えるだけでは不十分です。重要なのは、どこまで上流を見てサプライチェーンを把握できているかです。

たとえば、次のような視点がこれまで以上に重要になります。

・使用している包装資材や添加剤は、どのような原料に支えられているのか
・その原料は、どの地域や輸送ルートに依存しているのか
・どの工程、どのサプライヤーがボトルネックになりうるのか
・代替先があるとしても、品質面・供給面の両方から切り替え可能か

安定供給を守るうえで必要なのは、原薬だけを見ることではありません。そのさらに上流にある素材、化学品、物流まで含めて構造的に捉えることが、これからの調達・SCMには求められます。

供給は、原薬だけでは守れない

医薬品は、原薬だけで成り立っているわけではありません。包装、添加剤、製造工程で使われる素材や化学品、そしてそのさらに上流にある石油化学原料まで、複数の要素が連続して初めてひとつの製品として成立します。

ナフサのような一見目立たない上流要素の変化は、すぐには見えなくても、サプライチェーン全体に静かに影響を及ぼします。だからこそ、供給を守るということは、より上流まで視野を広げることにほかなりません。

当社では、医薬品サプライチェーンを取り巻く環境変化を、原薬調達だけでなく、包装資材、添加剤、物流、変更対応まで含めた全体構造として捉えることが重要だと考えています。今後も、安定供給に資する実務的な視点を発信してまいります。