記憶は温度をもって受け継ぐ – 舞鶴の挑戦

終戦から80年が経ち、私たちが直接体験者の声を聞ける機会は、年々少なくなっています。
テレビで京都府舞鶴市にある「シベリア引揚記念館」の取り組みが紹介されていました。舞鶴は、戦後、多くの引き揚げ者を迎えた港町。その歴史を語り継ぐため、長年にわたり「語り部」の方々が訪問者に当時の体験を伝えてきました。

しかし、語り部の高齢化は避けられず、直接の体験者は少なくなっています。代わりに、経験のない方が資料や証言をもとに語る機会が増えましたが、やはり「その時を生きた温度感」を伝えるのは容易ではありません。

そんな中、記念館は新しい方法を模索しました。地元の高専に依頼し、過去に収録された語り部の証言映像をもとに、AIを活用した仕組みを開発。見学者が質問すると、その内容に該当する証言の動画が再生されるという、まるで語り部と対話しているかのような体験が可能になったのです。

記憶を残すことは、単にデータや記録を保存するだけではありません。そこには、語る人の表情や声色、間の取り方、息遣い——そんな温度をともなった情報があります。AIはその温度まで再現できるわけではありませんが、体験の断片を引き出し、未来の人々に触れてもらうきっかけをつくることはできます。

「忘れないために残す」から、「感じられるように残す」へ。
舞鶴の挑戦は、これからの語り継ぎのかたちを静かに、しかし確かに示しているように思います。