「技術を伝えること」こそが未来をつくる

先日閉幕したTICADでは、大原薬品工業がナイジェリアの製薬会社と組み、
アフリカ市場で産業を根付かせる取り組みが紹介されました。
「寄付は一時的。産業を根付かせることが重要」──
その言葉に、安定供給の本質が凝縮されていると感じました。

そして、国内でもまた「根付かせる挑戦」が始まっています。

Meiji Seika ファルマ、31年ぶりの再開

Meiji Seika ファルマは今秋から、ペニシリン系抗菌薬の出発原料「6-APA」の国内製造を
31年ぶりに再開します。

抗菌薬は長年にわたり薬価の引き下げにさらされ、安価な中国製原薬が市場を席巻しました。
結果として、日本国内での生産は途絶え、6-APAはほぼ全量を中国からの調達に依存するようになったのです。

政府はこのリスクを重く見て、2022年に経済安全保障推進法に基づき
ペニシリン系を「特定重要物資」に指定。
国の支援を受けながら、ようやく国内回帰の道が拓かれました。

技術を伝えることの誇りと使命現場で印象的だったのは、ベテラン社員のお言葉です。

「自分の技術をすべて伝えたい」

そこには誇りと使命感が滲んでいると感じました。
かつて日本の抗菌薬を支えた世代から、次世代へ。
「今が後継育成のラストチャンス」という強い危機感の中で、技術が受け継がれています。

技術とは単なるノウハウではなく、積み重ねてきた人の経験そのもの。
それを未来に渡すことが、安定供給の根幹を支える営みだと感じます。

共通するもの

大原薬品工業がアフリカで挑むのも、Meiji Seikaファルマ が国内で再び挑むのも、
方向は違っても根本は同じです。
それは「産業を根付かせ、未来へと継承すること」。

安定供給は単に調達先を分散することではなく、産業が持続可能である仕組みをどう築くかにかかっています。
その意味で、国内と海外、二つの挑戦は「医薬品を切らさない」という一点で重なっています。

近日の予告とお願い

次回は「国産添加剤メーカーの撤退がもたらすリスク」について取り上げる予定です。
この問題もまた、日本の安定供給にとって看過できない課題です。

あわせて、製薬企業の皆さまからのご意見を伺うアンケートも実施いたします。
現場での課題やお考えを共有いただきながら、共に「薬を切らさない社会の仕組み」について考えていければと思います。